4/29、5/3-5/6、午前診察あり

悪性新生物

いわゆる、がんのことです。何らかの原因(遺伝因子、環境因子など)により細胞が無秩序に増殖し続け、健康な細胞までも破壊してしまい死に至らしめる人類がまだ克服してしない病気の一つです。死因の第一位として、長年にわたり君臨しています。しかし、最近ではがんにより死亡率の低下、5年生存率の上昇や種類、病期によっては根治できるようになってきました。予防によりがんにならない体づくりと、早期発見、早期治療が必要となります。ひと口にがんと言っても、多様な臓器にわたりそれぞれのエキスパートによる診断、治療が行われています。当クリニックが先進的にその中に介入できる余地はあまりありません。ですが、私個人、昨年がんにり患した際の、診断、治療や経過観察となっている現状をお伝えすることで皆さまとの情報共有できるのではないかと考えました。私が体験したがん治療についてご報告させていたただきます。

症例 40歳男性

経緯
  • 主訴:特になし
  • 現病歴:生来健康、人間ドックでは高血圧、高脂血症を指摘されていたがそのほか異常を指摘されたことはなかった。20XX年10月、いつも通り人間ドックの予約を取った。前回、腹部CTで右肺下部に石灰化?の所見があったため今回は初めて、胸部CTの予約をした。おそらく問題ないだろうと思っていた。
  • 家族歴:父:脳出血 母:糖尿病
  • 生活歴:酒 1-2合/毎日X10年以上  タバコ 20-24歳 10-15本/日
  • 常備薬:なし
  • 運動:定期的にはしていない
  • 身長:179cm 体重:85kg

人間ドックでは案の定、血圧高値、BMI 25以上を指摘された。

10月中旬結果返却、封筒の中にCDが入っていた。専門機関への受診をすすめる通知が同封。
すぐに、CDを確認する。右上肺野に円形の辺縁が滑らかな、すりガラス陰影あり。長径約7㎜。

肺は右に3葉、左に2葉に分かれます。今回の病変は右の上葉、先端部にありました。

早速、腫瘍内科医のいるA病院を受診した。予想していた通りがん、ごく早期のものか、異形成、がんの前駆病変ではないかと説明を受けた。炎症性病変の可能性もあり、3カ月後のCTフォローとなった。

果たして、このまま経過観察でよいのか?といっても、完全に専門外のためどうすればいいのかわからない。知り合いに呼吸器外科医もいない。仕方がないので、論文を手あたり次第読みまくった。と言っても、ネットで探せば同じような症例は結構あり、参考になるものもあった。病変はいわゆる、すりガラス状結節(GGN: ground glass nodul)  すりガラス状影(GGO:ground glass opacity)と呼ばれたりする。ほぼがんで間違いないようだ。白い結節部分が少ないほど前がん病変であるらしい。経過観察しながら、大きくなってきたところで切除の方針となるとわかる。どのくらい大きくなったら切るのか?切るのは肺を全部切るのか?疑問が、疑問をよぶ。

結局、A病院からB病院へ紹介状を依頼した。理由は、早期に切りたいと思ったから。はっきり言って待てない、そして、切るならちいさく切りたい。まだいっぱい呼吸をしたい。子どもとまだまだいっぱい遊びたい。ローンも山ほど残っている。

B病院の主治医と初めてあう。正直がんになってしまい、非常に後ろめたい気持ちがあった。はやくけりをつけたいと思った。

主治医
主治医

おそらくがんでしょう。待つという方法ありますが、若いから切ったほうがいい。

僕

できればすぐに切りたい。で切り方は、ここでは部分切除を積極的にしていると聞きました。

切除の方法にもいくつか種類がある。部分切除、葉切除、全切除。病変の大きさ、場所、数、リンパ節への転移などを検討しできるだけ温存しながら切除する。その反面取り残しがあると再発の可能性が高まる。

結局、さらに詳しい検査をして治療方法を決めましょという運びとなった。

検査
Labo
ECG
spirometry
Chest-XP
PETCT
検査結果

転移なし、おそらくごく早期の上皮内がんではないだろうか?の診断となる。胸腔鏡併用下右上葉部分切除の選択となった。

がんの細胞が基底膜という境界線をはさんでそれより深い場合をがんといい、それより浅いと上皮内がんと呼ばれる。深達度が浅い分、周りへの浸潤か転移などが少なく根治を期待できる。部分的に切除することが可能である。その反面、再発の危険性もある。(*がんの種類によって定義は変わることがある)
手術

はじめての入院、はじめての全身麻酔、はじめての手術、はじめてのICU。なるようになると言い聞かせるが、で、どうなるのか?と、延々堂々巡りで入院中はほとんど眠れなかった。贅沢に個室なんか選べないし、早く帰りたい。そればかり・・・

図はイメージ、実際は胸腔鏡下手術
Created by modifying Cancer Research UK – Original email from CRUK, CC BY-SA 4.0, Link

9時過ぎに手術室に入る。硬膜外麻酔の穿刺を行い、仰向けでゆっくり吸入麻酔を吸う。深酒をして、夜中の2時ごろに酩酊で前後感覚がなくなったような感じになり、そのまま、深い眠りへ。目覚めると、11時30分くらいであった。看護師さんにすぐに時間を聞く。上葉切除になると時間がかかるので昼を超えると言われていたので。妻の顔一瞬見えたような気がしたが大急ぎでどこかにベッドで運ばれていく。どこに行くのか?すぐにICUだとわかった。ピコピコ嫌な音だと思うとともにすぐ、全身に激痛が走る。痛くて寝返りどころか動けない。酸素マスクもしている。痛みは痛みを呼び寄せる。半端ない痛み、それからしばらく眠ったようだ。

HCUではリハビリ開始、と言っても胸腔ドレナージを付けたまま、少し歩く練習です。が、歩けない、まず立てない、呼吸できない、めまい、立ちくらみで3分も持たなかった。相変わらず、痛みが半端ない、痛くて寝返りすらできない。後で気づいたことだが、硬膜下麻酔のボトルがついているので痛いときは随時薬液注入を自分ですればいいのだが、それにも気づかずひたすら痛みに耐えていた。ICU、HCUと一泊ずつ滞在し、一般病棟へ移動する。その頃には痛みは2-3/10にまで改善していた。病棟で安静度を徐々に上げ順調に回復していった。幸いなことに術後の合併症はなかった。

結局、予定より一日はやく退院となった。だが、少し歩くと息切れと、全身倦怠感、痛み耐えられなくなる。とはいっても、働かないといけないし、どうなるのかな?

最終診断
  • 術式:右肺上葉部分切除術
  • 右肺S1 腫瘍形 7x5x5mm 浸潤径0mm
  • Adenocarcinoma in situ,non-mucinous,G1
  • pTis cN0 cM0 pStage 0
  • 胸膜浸潤なし、脈管浸潤なし

その後半年に一回の外来フォロー、胸部CTフォローとなる。多くのひとのおかげ身内も含めていまのところ元気に毎日を過ごすことができています。ただ、少ないとはいえ再発の可能性があります。日頃は気にならないですが、ふっと何か得体のしれない不安感に苛まれることもたまにあります。とは言え、元気に仕事ができていることに感謝にこの記事を読まれた方にとって不安の解消になればと思います。ご不安なことがありましたら、ご相談ください。